SAWASAN-BLOG

臨床検査技師の「知識整理」と「気まま雑記」ブログ

【食中毒と母子感染】リステリア感染症①

こんにちは!

前回更新からちょっと間が空いてしまいました。

たまにはお酒でも飲みながらまったり書きます。

f:id:sawasanblog:20200819230049j:plain

先日、友人から電話がかかってきたのですが、

「妊婦の嫁がオニヤンマ食べたけどリステリアとか感染症大丈夫?」

と言った感じの内容でした。

なかなかファンキーな奥さんですね。

よくよく聞くと職場の付き合いの中でアウトドアしたらしいのですが、サバイバルにハマってる子ども達がオニヤンマを捕まえてきて、それを素揚げにして皆で食べたらしいです。

食べたはいいけど、その後不安になった奥さんが調べたらリステリアにたどり着いたようです。

なぜ奥さんが不安になったかというと、そう、リステリアは母子感染を起こすからです。

オニヤンマからリステリアに辿り着いたのは驚きですが、油でしっかり揚げているなら大丈夫でしょう。

というわけで、今回はListeriaについて勉強したいと思います。

 

目次

 

Listeria monocytogenes

Listeria属でヒトに病原性を示すのはL. monocytogenesです。

L. monocytogenesは自然界に広く分布する人獣共通感染症ですね。

2~5%程度の健常成人の便中にも存在します。

ヒトは 食肉や野菜、チーズなどの食品を食べることで経口的に感染します。

病型は髄膜炎が一番多く、他に敗血症食中毒などを起こします。

健康な成人では無症状なまま経過することが多いようですが、感染初期にはインフルエンザ様症状を示す場合があるようです。

潜伏期間が平均約3週間と長く、感染経路の把握が困難な場合が多いみたいですね。

医療現場で遭遇することが多いのは、高齢者や免疫抑制者の髄膜炎かと思いますが、一般人の関心が高いのは食中毒と、妊婦が感染した場合の胎児への垂直感染ではないでしょうか。

今回は医療従事者ではない友人からの相談が勉強の契機ですので、 L. monocytogenesを軸に食中毒と母子感染の観点からまとめていきます。

 

臨床微生物学的特徴 
  • 通性嫌気性菌のグラム陽性桿菌
  • 周毛性鞭毛
  • ヒツジ血液寒天培地で弱いβ溶血
  •  BTB寒天培地にも発育する
  • 低温(4℃冷蔵)でも発育可能
  • 高層半流動培地でUmbrella motilityが見られる
  • カタラーゼ陽性
  • オキシダーゼ陰性
  • CAMP試験陽性
  • 血清型は4bが最も多く、次いで1/2b、1/2aが多い
  • セフェム系薬剤耐性

 

上記が、各種臨床検査技師の試験に出そうな特徴です。

因みに、L. monocytogenes同様にβ溶血を示すグラム陽性桿菌にはArcanobacterium haemolyticumがあります

A. haemolyticumはカタラーゼ陰性でCAMP抑制反応を示す点で、L. monocytogenesと区別できます。

国試レベルではまず見ないでしょうけど、認定試験なら出てくるかもです。

 

食中毒

一般に食中毒対策として、食品の冷蔵保存や加熱処理が有効と思われていますが、それでは不十分な場合があります。

このリステリア感染症もその一つです。

食中毒において温度の観点からおさえるポイントは以下の2点。

 

加熱調理無効

Clostridium paerfringensなどの芽胞形成菌、S. aureusの耐熱性エンテロトキシン

 

冷蔵無効

Listeria sp.Yersinia sp.などの低温発育菌による食中毒

 

「カレーは煮込んであるから数日常温放置でも大丈夫」と過信すればC. perfringens(ウェルシュ菌)に中りますし、S. aureus黄色ブドウ球菌)に汚染された肉も「焼けば大丈夫」と過信すれば、加熱でS. aureus自体は死滅しても既に産生されていた耐熱性のエンテロトキシン(外毒素)によって食中毒になる可能性があります。

これらの対策は食材にいる原因菌を増やさないことです。

冷蔵が有効ですので食材を常温放置しない、調理後も早めに食べきることが大切ですね。

また、低温発育菌もいることから「冷蔵庫に入れておいたから古くなっていても大丈夫」というのも対策としては不十分です。

厚生労働省からのリステリア症に関する注意喚起を引用しておきます。

 

リステリアは冷蔵庫内でも増えるので、冷蔵庫を過信せず、食品は期限内に(開封後は速やかに)食べるよう心がけましょう。リステリアは加熱により死滅するので、加熱して食べることも、予防対策の一つです。


◆家庭での予防方法
  ・生野菜や果物などは食べる前によく洗う。
  ・期限内に食べるようにする。
  ・開封後は、期限に関わらず速やかに消費する。
  ・冷蔵庫を過信しない。
  ・冷凍庫で保存する。
  ・加熱してから食べる。

<中略>

◆リステリア食中毒の主な原因食品例
  ・生ハムなどの食肉加工品
  ・未殺菌乳、ナチュラルチーズなどの乳製品(加熱をせずに製造されるもの)
  ・スモークサーモンなどの魚介類加工品

 

引用:厚生労働省HP リステリアによる食中毒

 

低温発育菌に対して加熱は有効ですので、しっかり火を通して食べれば過度に恐れることはありません。

また、L. monocytogenesの感染力はCampylobacter sp.など他の食中毒菌のそれに比べて高くないと考えられていますので、生野菜などきちんと洗い流すだけでも効果あるかもしれませんね。

食中毒に関しては、過去にまとめてありますのでお時間ありましたらご覧ください。

 

www.sawasan.xyz

 

因みに、L. monocytogenes感染症は日本では保健所への届出対象ではないため正確な統計はありません。

とりあげておいてなんですが、健常人においては感染リスクが比較的高くないからかもしれませんね。

 

母子感染

妊婦がL. monocytogenesに感染すると子宮内の胎児へ垂直感染し、流産や死産を起こす可能性があります。

妊婦は発熱や悪寒を主徴としますが、妊娠中のリステリア感染の20%は流産や死産を起こし、生存した胎児の68%は新生児敗血症へと移行するとの報告がありました。

(参考:臨床微生物 Vol.38 No.6 「母子感染 人獣共通感染症(リステリア)」関沢明彦,他)

上記の参考文献には、38℃代発熱の妊婦に羊水穿刺を行い、グラム染色でグラム陽性桿菌を確認したため帝王切開となった症例報告が載っています。

青汁を多量に摂取していた問診情報から、青汁からのリステリア菌検出を試みたそうですが、検出には至らなかったようです。

ビタミンを売りにした商品には非加熱処理のものがありますから、感染源として疑うのも納得ですね。

臨床的には、母体感染があれば、絨毛膜羊膜炎となることが多く、胎盤には膿瘍形成が見られ、胎児感染があれば羊水が茶褐色か胎便が混入した状態になることが多いそうです。

以下に妊婦感染のまとめを引用しておきます。

 

(1)妊婦での感染
・妊娠中は軽度の細胞性免疫不全であり、リステリア菌血症発症リスクは17-100倍とも
・通常の免疫防御機構が到達できない胎盤で増殖
・理由はよくわからないが、中枢神経感染は他のリスクがなければ極めて稀
・筋痛や関節痛、頭痛、背部痛を伴う急性の発熱ではリステリア菌血症を考える
・通常妊娠第3三半期に起こる(恐らく細胞性免疫が26-30週で急に低下するため)
・ヒトでは周産期感染の22%が流産や新生児死亡となる。早産や流産もよくある
・菌血症は治療しない場合でも大概は自然に良くなってしまうが、羊膜炎となった場合、
 自然/治療的に流産となるまでは発熱が持続する
・妊娠中にリステリア症となったうち、(生存した)2/3の児に新生児リステリア症を発症
 →早期に診断して抗菌薬治療をすることが、児が感染なく出生するのに大切
・ヒトではリステリア症が習慣性流産の原因となるという確定的な証拠はない

 

引用:亀田総合病院 感染症科HP Listeria monocytogenes について 

 

予防は食中毒の対策と同様です。

稀に乳母からの水平感染もあるようですが、母子感染以外のヒトヒト感染の報告はないようです。

Listeria感染症の治療にはアンピシリンとゲンタマイシンの相乗効果が期待できます。

Enterococcusの感染性心内膜炎と同様ですね。

また、前述の通りL. monocytogenesにセフェム系抗菌薬は無効です。

 

母子感染についてはいずれまとめを書きたいです。

母子感染の一つ、風疹に関しては以前書きましたが、今見直すとまだブログに慣れておらず、今よりさらに雑で下手ですね。

お恥ずかしいクオリティですがもし宜しければ。

 

www.sawasan.xyz

 

 

終わりに

はい、今回はリステリアについて勉強しました。

病院で働いていると知人友人から医療の知識を聞かれる事ってありますよね。

これ、嬉しいことです。

普段から病気で困る人の力になりたいと思って勉強している訳ですので、答えられたら目標の達成感と自分の努力の肯定感がありますし、答えられない場合はもっと頑張ろうとモチベーションが上がり、調べて自分の勉強になります。

今回も友人からの電話をきっかけに勉強できて良かったです。

では、お疲れさまでした!